英語より大切な能力
アンタがワイキキの浜辺で日光浴を楽しんでいたとしよう。そこへ近づいてきたひとりの男がこう言った。
Excuse me.. This is the private area of this hotel. Could you move to
some other area?(ここはこのホテル専用のビーチだから、ほかの場所に移動してくれない?)
あたりを見回すと、寝そべっているのはそこにあるホテルの泊まり客らしい人ばかり。しかも近くの看板に「PRIVATE PROPERTY NO TRESPASSING」(私有地につき立ち入り禁止)の表示がある。
この言葉に対して、アンタはどう対応するだろうか。
英語も理解できず、現地の事情も知らない人なら、男の剣幕に押されて、怪訝な顔をしながら、すごすごとその場を去る以外にない。大部分の日本人はこのパターンだろう。
英語がわかるだけという人なら、Sorry, I didn't know that.(すいません、気がつきませんでした)とか言いながら、これまたそそくさとほかに移動するに違いない。
しかし、英語はまったく話せなくても、現地の事情についてよく知っている人だったなら、どう対応するだろう。ハワイでは、浜辺に関しては個人の所有権が認められていないという知識があれば十分だ。「立ち入り禁止」の表示は、陸地の部分だけにしか意味を持たないのだ。
「ほかに移動しろだと?お前はどんな権限があってそんなこと命令できるんだよ。支配人を呼んで来いよ。それとも警察を呼ぶか!」と日本語で怒鳴ればよい。その男はすごすごと引き下がるはずだ。
このとき、これを英語で言えばもっと迫力がある。
What are you talking about? Which law says you can't sit on a Hawaiian
beach? Do you want me to sue you?(何ほざいてんだよ。どんな法律がハワイの海岸にすわっちゃいけないってんだ。訴えたろか?)
男はガラッと態度を変えて、平謝りし、デッキチェアを持ってきてくれるかもしれない。
この例でわかることは、次のような事実だ。
コミュニケーションを成立させるには、次の3つの要素がある。
@ 伝達するべき内容や知識
A 相手の意見を鵜呑みにせず、自分の意志を表明しようとする態度と度胸
B 言語能力
しかも大切なことは、以上3つの要素はこの順番どおりに重要で、おおざっぱに言えば、3:2:1の比率になる。極論すれば、コミュニケーションを成立させるためには、言語能力は20%以下の意味しかない。英語がペラペラでも、何の役にも立たないことがしばしば起きるということだ。
「相手を自分の思うとおりに動かす」という能力は、単なるコミュニケーション能力以上のものになる。オレはこれを「パフォーマンス能力」と呼んでいる。これは「英会話能力」をいくら高めても意味がない。ふだんから自分の主張することを筋道立てて伝えられるように訓練しておく必要がある。それができていないと、「言語明瞭、意味不明」になったり、なまじ言葉が通じたために、かえって予期しない不利益を被ることになる。
英語の勉強はほどほどにして、いつどんなときでも正しいと信じる主張を堂々と述べられる訓練を積むことにしようね。
「英語ができなければ、もっとうまくいったのに」ということもある